抗てんかん薬TDM
2012年10月11日
日本TDM学会作成抗てんかん薬のTDMガイドラインドラフト版
Tです。
日本TDM学会は現在、TDMの標準化を目的に動いています。そのために現在、各領域のTDMガイドラインを作成中です。
俺の所属する病院は中小の療養型の病院ですが、抗菌薬のTDMを数年前から始めました。
抗菌薬に関しては、TDMが何とか文化として(?)根付いてきたと思っていますが、ここでさらに踏み込んで、抗てんかん薬の血中濃度も必要な時には測定することが当たり前のこととして受け止められるようにしたいと思っています。(ルーチンで測定するという意味ではない)
そんな気持ちもあり、今回TDM学会作成のガイドラインのドラフト版を(自分に必要な部分だけ)まとめました。正式なものは日本TDM学会のHPから見れるので、気になる点があったらそちらで確認ください。
〈フェニトインの要点〉
・治療濃度域
10~20μg/ml(非結合形濃度:1~2μg/ml)←推奨グレードA
・測定タイミング
初回投与時、用量変更時、相互作用を生じる可能性のある併用薬剤の変更時に投与開始もしくは量変更5日以降にトラフ濃度(投与直前)のモニタリングを行う。←推奨グレードA
・薬物相互作用について
フェニトインの血中濃度は併用する抗てんかん薬によって変動する。また、併用薬物の血中濃度を低下させ、薬理効果を減弱させる。←推奨グレードA
併用薬の変更後にフェニトインの効果増強もしくは減弱が見られた場合にはTDMによる検証に努める。なお併用による臨床症状の変化は、変更直後ではなく徐々に発現する場合も多いため、長期的な注意深い観察が必要である。
・その他
蛋白結合率低下患者では非結合形濃度測定が必要である。←推奨グレードB
中毒時のTDMは血中フェニトイン濃度が治療域内に低下するまで頻回にTDMを行う。←推奨グレードA
代謝酵素の遺伝子検査の必要性について、必ずしも行う必要はない。←推奨グレードC
・フェニトインの中毒症状
眼振、発作の機能活動、不随意運動の誘発、運動失調、知的能力の低下、さらに血中濃度が上昇すると意識障害、血圧低下、呼吸障害を生じる。
2012年10月12日
日本TDM学会作成抗てんかん薬のTDMガイドラインドラフト版その2
Tです。前回の続きです。
〈カルバマゼピンの要点〉
・治療濃度域
4~12μg/mlだが8μg/mlを超えると副作用の頻度が高まる。←推奨グレードA
最初の治療目標は5~8μg/mlとし、患者の状態に応じて最大12μg/mlまで増量するのが良い。他の抗てんかん薬を併用している患者では副作用が生じやすいため、やや低めの4~8μg/mlが推奨される。
・測定タイミング
基本的にトラフ濃度で採血し、定常状態到達(おおよそ3~4週間)までは1~2週間ごとに測定し、投与量・併用薬変更時にも測定する。←推奨グレードA
定常状態到達後に投与量を変更した場合、新たな定常状態到達まで4~5日かかる。定常状態到達前に投与量を変更した場合、それまでの投与期間に応じて定常状態到達まで1~3週間かかる。
カルバマゼピンの代謝を誘導あるいは阻害する薬物の併用が開始あるいは中止された時には定常状態到達まで1~2週間かかる。
・その他
代謝酵素の自己誘導を起こすので、消失半減期は投与初期は10~36時間だが連続投与では10~24時間に短縮される。←推奨グレードA
重篤な肝障害患者、高齢者、妊婦には慎重に投与する。←推奨グレードA
活性代謝物のTDMはルーチンでの測定は必要ない。←推奨グレードC
カルバマゼピンの濃度は高くないにも関わらず副作用が現れている患者ではエポキシド体のTDMを勧める。
・カルバマゼピンの中毒症状
複視、眠気、知覚障害、眼振、運動失調、嘔気・嘔吐など。
血中濃度が治療域内であってもSJSが投与後1~3週間に発症することがある。
2012年10月15日
日本TDM学会作成抗てんかん薬のTDMガイドラインドラフト版その3
続きを記載します。
〈バルプロ酸の要点〉
・治療濃度域
総バルプロ酸血中濃度40~125μg/ml←推奨グレードA
本邦のインタビューフォームには40~120μg/mlが治療上有効と記載されており、治療域の下限は40μg/ml程度が目安とされる。
上限に関して確固たるコンセンサスは無いが、部分発作患者ではしばしば80~150μg/mlでコントロールが得られることがある。
米国精神医学会ガイドラインでは躁うつ病に対する治療濃度を50~125μg/mlと定めている。
・測定タイミング
初回投与後または用量変更後3~5日目以降に測定する。←推奨グレードA
トラフ濃度をモニタリングする。
他の抗てんかん薬など酵素誘導作用をもつ薬剤と併用により消失半減期が短縮するため、状況により早めの測定も考慮する。
・一般的な体内動態について
治療用量範囲において、投与量と総バルプロ酸血中濃度は非線形を示すが、非結合形バルプロ酸濃度は投与量に比例して上昇する。←推奨グレードA
治療濃度域での蛋白結合率はおよそ70~95%である。
・特殊患者での体内動態について
病態や生理状態が特殊な患者では、総バルプロ酸血中濃度測定値のみに基づく判断は評価を誤る可能性がある。←推奨グレードB
腎疾患時などは総血中濃度を低下させるが非結合形の薬物動態には影響しない。
肝疾患時に低アルブミン状態を示している場合には非結合形濃度が上昇しているにも関わらず、総血中濃度は治療濃度域に入っていることがある。
高齢者は予想以上に非結合形バルプロ酸濃度が高い可能性を考慮し、臨床症状・経過に基づき投与量設定を行う。
特殊な患者群等の非結合形分率の上昇が予想される場合には状況により総血中濃度は低めの設定から様子を見るなどの配慮も必要である。
・その他
カルバペネム系抗菌薬の併用は禁忌である。←推奨グレードA
・バルプロ酸ナトリウムの中毒症状
毒性域は一般に200μg/ml以上とされているが、昏睡、せん妄は多くの場合100μg/ml以上、吐き気、嘔吐、傾眠、めまい、運動失調などの副作用症状は治療濃度域でも発現する可能性があるため、副作用に関する注意は常に必要である。
2012年10月16日
日本TDM学会作成抗てんかん薬のTDMガイドラインドラフト版その4
Tです。続きです。
抗てんかん薬TDMガイドラインドラフト版のまとめは今回で終了です。(他の薬剤はTの病院では正式採用されていないので。)気になる方は日本TDM学会HPより確認して下さい。
抗てんかん薬の薬物相互作用に関しては後日、別の資料をもとにまとめたいと思ってます。
〈フェノバルビタールの要点〉
・治療濃度域
10~35μg/ml←推奨グレードA
・測定タイミング
初回投与開始約14~28日以降、投与量変更時には4~5日以降に測定する。←推奨グレードA
アレビアチン、デパケン等を併用開始時には4~5日以降に血中濃度を測定する。
採血時間はトラフ濃度で良い。ただしどの時間帯で採血しても大きな誤差はない。
・一般的な体内動態について
他の抗てんかん薬との薬物相互作用が多い。←推奨グレードA
・特殊患者での体内動態について
疾患及び年齢によりクリアランスが変動する。←推奨グレードA
肝硬変患者における消失半減期は健常人に比べて延長する。
腎疾患の程度により消失半減期は延長する。
尿毒症患者ではタンパク結合率が20~30%に低下する(低Albによる)。
妊娠により血中濃度は低下する(タンパク結合率の低下や分布容積の増加による)。
・フェノバルビタールの中毒症状
眠気、歩行失調
〈ゾニサミドの要点〉
・治療濃度域
10~30μg/ml←推奨グレードB
10~40μg/mlとする報告もあるが血中濃度と臨床効果との関連性は明らかでない。
40μg/ml以上で副作用が報告されている。
・測定タイミング
初回投与後または投与量変更後の2週間以降。←推奨グレードA
定常状態のピーク濃度とトラフ濃度の差は小さく、採血時間の相違による影響も小さい。しかし、同一の患者では同じタイミングで採血することが望ましい。
・一般的な体内動態について
治療用量範囲において投与量と血中濃度は直線的な関係を示す。←推奨グレードB
・薬物相互作用について
酵素誘導作用を有する抗てんかん薬の併用により、クリアランスが増加する。←推奨グレードA
・特殊患者での体内動態
肝・腎機能障害患者では血中濃度のモニタリングを実施する。←推奨グレードC
重篤な腎機能障害ではクリアランスが低下する。
重篤な肝機能障害でも血中濃度が上昇する恐れがある。
・ゾニサミドの中毒症状
40μg/ml以上で眠気/注意力低下が報告されていることから、血中濃度上昇による副作用を確認する場合にはTDMの実施を考慮する。
2012年10月25日
抗てんかん薬の相互作用について
Tです。
抗てんかん薬TDMの院内マニュアルを作る際に、日本神経学会のてんかん診療ガイドライン2010も参考にしました。
主に参考にした部分をまとめておきます。
今までの様にTの病院に必要な薬剤のみのまとめなので、気になる方は日本神経学会HPより確認下さい。
抗てんかん薬の相互作用-血中濃度の変化(縦の薬剤に対し横の薬剤が与える影響)
| フェニトイン | カルバマゼピン | バルプロ酸 | フェノバルビタール | ゾニサミド |
フェニトイン | ― | ↓↓ | ↓↓ | ↑ | ↓ |
カルバマゼピン | ↑ | ― | ↓ | ↑ | ↓ |
バルプロ酸 | ↓ | ↓ | ― | ↑↑ | |
フェノバルビタール | | ↓ | ↓ | ― | ↓ |
ゾニサミド | | | ↑ | | ― |